vol.7
なんとなく続けていくこと×伏木板金
インタビュアー:相川将宏
2023.10.5
栃木県都賀町の魅力を、住んでいる人から伝えるヨモココ。
今回は屋根工事や雨樋の工事を行なっている伏木板金様にお話を伺います。
代表の伏木宏行様は先代である父のもとで10年間の修業後、平成29年より事業継承されたそうです。
- 相川
実は今回、ヨモココの初回でインタビューさせて頂いた青木工務店の代表青木様からのご紹介なんです。
- 宏行様
ありがとうございます。よろしくお願いします。
国宏さん(青木様)とは自分が会社に入る前からの付き合いで、昔から良くしてもらっていました。- 相川
なるほど、青木様とも長い付き合いなんですか!
お父様の代からということですか。ちなみにお父様はいつから板金をやり始めたんですか?- お父様
ハタチ頃かなぁ。
- 相川
今はおいくつでしたっけ。
- お父様
71歳になります。
- 相川
ということは50年!
- 宏行様
元々父は兄弟経営で、自分からするとおじさんがやってたんだけど、53歳くらいの頃に亡くなってしまって。
そこから父が事業を受け継いだんです。
この道50年
- 相川
せっかくなのでこのままお父様にお話を伺いたいんですけど、50年続けるってすごいことじゃないですか。
今まで板金をやってきて、大変だったこととか印象に残ってることってなんですか。- お父様
今みたいに道具が無かったことかな。何でも手作業で作ってたから。
今は屋根材も既製品を部材屋さんの方で作ってもらえるけど、昔は全部手で作ってたから。- 宏行様
俺も何回かやったことあるけど、大変だったと思う。
樋とかも今はできてるけど、昔はああいうのも叩いて丸めて作ってたんです。- 相川
そうなんですか!あれって板金屋さんが作ってたんですか!
家一軒施工するにも、めちゃくちゃ下準備が必要そうですよね。- お父様
現場終わって帰って、そのまま作業場で加工してたからね。
- 宏行様
だから子どもの頃はどこにも連れてってもらえなかった(笑)
けど、時代が変わったよ。機械もだいぶ良くなったし。- 相川
でもその時代を知っているっていうのも重要ですよね!
構造とか成り立ちを知ってて施工するのと知らないのとでは違うと思います。
就職先での経験
- 相川
お父様の仕事をどうして継ごうとおもったんですか。
- 宏行様
何だろうね。高校卒業して三年間サラリーマンやって。その後とりあえず家の手伝いみたいな感じで始まったのがずっと続いてるのかな。
- 相川
三年間どんな仕事をされてたんですか。
- 宏行様
ビルメンテナンスです。
学校の就職案内で、勤務地には宇都宮とか獨協も入ってたんだけど、お前は越谷だって。
今まで自転車しか乗ったことなかったのに、毎日ぎゅうぎゅうの電車で通勤してた(笑)- 相川
へぇ。ビルメンテナンスですか!しかも越谷ってなかなか遠い。
- 宏行様
電気交換したり、トイレの詰まりを直したり。
2人で常駐して、泊まり勤務の時は24時間働いてた。- 相川
24時間!
- 宏行様
そう。朝の9時から次の日の朝9時まで。
2人組みだったからさ、そこで人間関係とかを学んだね。
どんな人と組んでも24時間一緒にいるわけだから(笑)- 相川
大人の対応と我慢も学んだわけですか(笑)
最初は何もわからなかった。
- 相川
最初はお父様のお手伝いから始まったということでしたけど、
どんな作業をしてましたか?- 宏行様
何からだろう。
できることは限られてるから、当時はやってって言われた作業を意味もよく理解せずにやってたのかな。
今思うとこの工程は水が入らないようにするとか、そういうことも分かるけど当時は何もわからなかった。- 相川
なるほどー。
一個一個の工程はそこだけ見れば単純だけど、それが最終的にどうなるか。
その繋がりが大切ってことですかね。- 宏行様
理解してやるのと、ただやってるのとでは違うから。
- 相川
ちなみにお父様は厳しかったですか?
- 宏行様
最初はやっぱり注意されることも多かったですよ。
生活面だと何も言われないけど、仕事となると、お金を頂いてやっているわけだから。- 相川
妥協しない厳しさがあったんですね。
- 宏行様
うん。やっぱり最終的にお客様に納めるものだから。そこは重要だよってことよね。
職人としてのこだわり
- 宏行様
前に栃木市の大神神社っていうんですけど、あそこの社務所の屋根を施工して。
元々叔父さんと親父で最初にやったんだけど火事になってしまって。
建て直すことになったけど、その時まだ俺は一年目で。- 相川
大神神社!(栃木市惣社町にある神社です)あそこの社務所も伏木さんだったんですか!
- 宏行様
そういう屋根の葺き方自体はわかるけど、割り付けとかバランスっていうのはやっぱり親父の方が経験があるから凄いなって思った。
なんて言うのかな、葺きの幅とかそういうのは職人の手作業だから。住宅とはちょっと違ったようなバランスというか、かっこよく見せるセンスを思い知ったんだよね。
- 相川
独特のバランスがあるんですね!
そう言われてみると確かに屋根の雰囲気が何となく違う気がしてきました。- 宏行様
色々な神社とかお寺を見に行ってるうちに、あぁこの屋根はかっこいいなとか、ここは屋根の線が綺麗だとか勉強になるから、そうやって少しずつ自分のものとして取り入れていくっていう感じかな。
- 相川
なるほど、実際に施工して学ぶことと、目で見て覚えること
その両方が大切というわけですか。
板金競技大会
- 宏行様
競技大会に出たのも刺激になったかな。
板金組合主催の大会なんだけど。- 相川
栃木県代表で出たんですよね。
しかも2年連続。- 宏行様
そう、ジャンケンで勝った(笑)
- 相川
2年連続でジャンケン強かったんですか(笑)
- 宏行様
でもやっぱり凄い職人さんばかりだった。
全員で50人くらいだったんだけど、予選やってくるところなんか10人から代表2人に絞って参加してた。- 相川
大会っていうのは、何かを提出するんですか?
- 宏行様
そうですね。水差しとかじょうろとか。
近代の道具は使わずに昔の道具だけで作るんですよ。
はんだごても炭で温めてさ。- 相川
なるほどすごいですねー!それを審査するわけですか。
何ていうか、アーティストですね。- 宏行様
でもなかなかトップには入れなかったですね。
最高で19位くらい。- 相川
一番強い県ってどこなんですか。
- 宏行様
やっぱ雪国。
- 相川
雪国って板金盛んなんですか?
- 宏行様
大会が2月なんだけど、11月くらいから雪で仕事にならないから朝から練習できるのもあるし、瓦屋根があまりできないからね。
屋根を軽くしないと雪の重みで家が潰れちゃうから。だから板金屋さん自体多いんじゃないかな。- 相川
確かに日光とか行くと古民家でも屋根をトタンで葺いているとこも多いです。
遊び心と技術
- 相川
これはお香立てですか?
- 宏行様
そう、(青木さんへの)プレゼントです。お香立てるって言っていたんで。
- 相川
ただのお香立てじゃなくて折り鶴が折ってあるところがちょっと憎いところですよね。
けどどうして折り鶴なんですか?かなり手間がかかりそうですけど。- 宏行様
縁起物だからかな。結構皆折るんだよね、板金屋って。あとは亀とか。
エビとか龍とか折ってる職人さんも居る。- 相川
へぇすごい!職人さんによって様々なんですね。
けど個人的にお香立てには鶴が似合っている気がします。
柔軟に取り入れていくこと
- 相川
現場によっては他の板金屋さんと仕事することもあるんですか?
- 宏行様
手伝いに行ったりすることはあるね。板金組合の人達と。
- 相川
そういうときも職人さんによってやりかたが違ったりするんですか?
- 宏行様
現場の納めがあるんで基本はその通りにしますけど、昔は自分のやり方がいいって思い込んでた。
今になってようやく周りが見えてきたというか、色々見てきたからこそ柔軟に対応できるようになったのかな。
- 相川
施工の仕様によってこういうときはこうやろうとか、ここはちょっと変えてみようとか
そういう感じですか。- 宏行様
それもあります。
あとはどういうふうに納めてるの?って仲間に聞くことも多いね。
こういう材料使ったことある?とか。- 相川
職人さんによっては我の強い方も多いと思うんですけど、伏木さんはその辺り柔軟にお仕事をされてて
そこがすごく良いと感じました。- 宏行様
今は色々な材料が出てきたから、昔みたいにトタン一枚で全部作った時代ではないから。
値段は安い材料だけどやりづらいよとか、こっちはちょっと高いけど仕上がりが綺麗だよとか、そういうのもあるんで分からないことは仲間にしっかり聞きながらやってます。
あとは職人さんによって色々な考えの方がいますから。
施工に関しても人によって、1日の仕事を半日で終わったぜって方もいれば、2日かけて綺麗に仕上げる方もいる。
現場によって求められるものも違うからね。- 相川
なるほどー。
- 宏行様
同じ場所の同じ建物っていうのは二度と無いし、職人さんそれぞれのスタイルもあるから。
まあ、ずっと勉強しながらやる感じかな、職人は。
なんとなく続けていくこと
- 相川
働く上で大切にしていることが「手を抜かない、無理をしない、怠けない。」と伺ったんですけど、どうしてこの3つなんですか。
手を抜かないと怠けないは当然としても、無理をしないってのは結構大切な気がします。- 宏行様
いつから言ってたんだっけ。
まぁ、たまには無理をするときもあるけどね(笑)- 相川
仕事ですから時には無理も必要ですよね(笑)
- 宏行様
手を抜かない、怠けないっていうのは向上心を持って仕事をすることかな。
結局大工さんとか工務店さんに仕事をもらうわけだから、
手を抜いて信用を無くしてしまうのはあっという間、それをずっと続けていくには地味だけどコツコツやっていくことが大切。
最初は家の手伝いでなんとなく続けてきたことだけど、これからも細く長くやっていければいいかな。- 相川
その「なんとなく続けていくこと」ってすごく大切なことだと思います。
例えば僕は古いランクルを持っているんですけど、同じ持ってる人の中でも
「一生これに乗っていきます」とか「一生持ってます!」って言ってる人ほど3年くらいでやめちゃう。- 宏行様
あー。
- 相川
だからなんとなく維持してる人の方がなんとなく自分の生活に溶け込んでて。
だから特別ってやってる人たちより長続きするんだと思います。- 宏行様
生活の一部みたいなかんじかな。
- 相川
そうですね。だから伏木さんはそういうふうに
「なんとなく」自分の中で消化させるのがすごく上手いんだと思いました。- 宏行様
どうなんでしょう(笑)
- 相川
それが先ほどの「無理をしない」ってことなんじゃないですか。
だからこそ親子2代にわたって、50年続く企業に成り得ているんだと思います。
父の影響
- 宏行様
環境が自分に合ってるのかな。あんまり気合い入りすぎると疲れちゃうから。
- 相川
そういう環境づくりはお父様の影響ですか?
- 宏行様
そうかもしれない。あれこれしろっていうのも言われなかったし、
絶対継がなきゃいけないっていうのもなかったから。
まあ、職人だから元々そんなにべらべら喋る感じじゃないけど(笑)- 相川
どうですかお父さん、その辺りは意図してやってましたか?
思った通りになりましたか。- お父様
うーん。思った通りにはやってくれたから、別に何も心配することはなかったよ。
自分から進んでやってくれたから、きっとこういう仕事が好きだったんだかしれないねぇ。- 相川
なるほど、「なんとなく」思った通りにいったという感じですかね(笑)
- 一同
(笑)
- 相川
ありがとうございました。職人さんってあまり自分のことを話したがらないので、とても貴重なお話をうかがえたと思います。
事業所紹介
インタビュアー
相川 将宏
ココツガでは全体企画を担当しています。ヨモココやYouTubeチャンネルを通して、都賀町やそこに住む人々の「ココ」にしかない魅力、つながりを発信していきます。