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vol.9

どんな仕事も受けられる職人 × 日里畳店

インタビュアー:相川将宏

2025.1.15

栃木県都賀町の魅力を、住んでいる人から伝えるヨモココ。
今回は、日里畳店(にっさとたたみてん)様にお伺いしました。
二代目の日里勝紀さんは、一級畳製作技能士の資格をもっていて、一般の畳、社寺仏閣などの畳からモダンなカラー畳まで、和洋折衷に富んださまざまな畳を作っています。

流行の畳・昔ながらの畳

相川

さっそくですが畳って、普段敷いてある状態は見慣れてるんですけど、種類とか流行りってあるんですか?

勝紀さん

流行りというか、今は薄畳が増えてきたかな。
普通は厚さが2寸(約6cm)の畳っていうのが主流なんですけど、今作ってるのは厚さ15mm。
多様性って言うのかな。30mmとか15mmって、薄い畳が増えてきてます。

相川

へぇ。畳の厚さって生活しててあまり意識したことなかったですけど、言われてみれば確かに厚かった気がします。
薄い畳って何か違ったりするんですか?

勝紀さん

段差を作らないバリアフリーだったり、通常の床材の厚さが大体15mmなので、畳用に深く掘らなくてもフローリング材の代わりに薄畳を敷いたりできるんです。
だけど、通常の畳の方が勿論踏み心地は良いし、メンテナンスもしやすく耐久性も高いです。

相川

メリット・デメリットがあるわけですか。

勝紀さん

そうですね。注文住宅とかアパートとかで1部屋だけ和室にしたいとか、1部だけ畳を敷きたいとか、そういう要望を叶えるための工夫です。
今作ってるこの薄畳も一般住宅の仕事です。埼玉の方から問屋さん経由でご依頼いただきました。

相川

なるほど!ちなみに納めるのは一般住宅が多いですか?また、仕事は全国でやられるんですか?

勝紀さん

基本的には一般住宅が多いですね。
自分が直接やるときは栃木がメインですが、関東各地にも行ったりします。

畳ができるまで

相川

畳を縫っているところを見せていただくことってできますか?

勝紀さん

できるよ。そしたら丁度今作ってる薄畳でやってみましょうか。

相川

是非是非。見させていただきたいです!

勝紀さん

じゃあ、少しだけ。

相川

畳の作り方って今まで意識したことなかったので分からないことだらけです。
普段何気なく見ている物も、よくよく見てみると気づきがあって面白いです。
細部まで丁寧に仕上げてあって、そもそも寸法がピタッと合っているのもすごい。

勝紀さん

そうだね。ちょっと違ったら仕上がりが全然違ってしまうので。
まあ、見ながら畳ってこういう感じで作られてたんだってのを知ってもらえれば。

相川

元々は機械じゃなくて、全て手作業だったわけですか。

勝紀さん

うん。まあでも50年くらい前から機械自体はあったから、自分は機械で仕事することも多かったかな。
ただ、畳が本来どうやってできているかをちゃんと知ってないと、できない仕事も多い。
2級とか1級の技能試験は基本手縫いなんで、手縫いができないと何でもやることはできない。
自分も基本的には機械がなくても何でも仕事はできるようにしています。
ただ、効率を考えるとやっぱり機械は便利です。

相川

体力もかなり使いそうです。

勝紀さん

そうだね。手縫いでやってたら1日6枚くらいしかできなくても機械だったら倍くらいできるから。
あとはここ、芯材にゴザを敷く時に気を付けるのが「いすじ」って言っていぐさの織り込み線、
いわゆる畳の目がまっすぐになってないと見た目が良くない。

相川

なるほど!まち針で止めながらしっかり整えるんですね。
確かに畳の目って掃除する時に気にするくらいだったけど、真っ直ぐじゃないと気持ち悪い気がします。

勝紀さん

まあ。それが素人にバレるようじゃ失格だけど(笑)
けどこの機械を買ってからすごい楽になった。これは相川さんのおかげですね。
補助金申請でご協力いただいて。今までは薄畳を作る時、ホチキスで止めて手でやってたのでだいぶ楽になりました。

相川

すごい!あっという間にできました!

勝紀さん

これに今から縁(ヘリ)を付けて仕上げます。
畳作りは基本、ゴザを巻く工程と縁をつける工程の2つに分かれてます。

流行のデザイン・昔ながらのデザイン

相川

縁が付くと一気に畳らしくなりました。デザインの種類もたくさんありますね!

勝紀さん

そうですね。昔からの柄もありますが、色々なデザインがあります。
逆にヘリなしの畳や、市松模様に敷く畳とかもあって、うちでも色々な畳に対応できるようにしています。
流行りだと、鬼滅の刃に出てきた和柄なんかも最近はバリエーションが増えてきました。
訓練校では社寺仏閣の畳も作れるように学んできました。

相川

社寺仏閣の畳というのは何か特殊な仕様なんですか?

勝紀さん

社寺仏閣は紋縁(モンベリ)という、円の紋が連なった柄の縁を使うんだけど、この紋を綺麗に揃えるのが難しいんです。

相川

上品な柄ですけど、確かにこれは揃えるの難しそうです。

勝紀さん

円を揃えるのは勿論なんだけど、円の間の菱形も綺麗に揃える、これが中々大変なんです。

相川

すごい!そこまで気をつけて調整するんですか!

勝紀さん

あとこれはちょっと自慢なんだけど、誰もが知ってる国の文化財の畳を作ったこともあるんです。

相川

へぇ!文化財ですか。

勝紀さん

今の畳はほとんどボードとかスチロールが入った芯材が使われてるんだけど、
国の文化財の仕事などは、しっかりと藁床から作るんです。
そして縁は先ほどの紋縁を使用しています。

相川

さすが国の文化財だと昔ながらの製法なんですね!藁床の方がクッション性が良さそうです。
そうやって仕上げた畳を現場でピタッと敷くんですか。

勝紀さん

そうですね。敷く時にも紋がずれないように特に気を使います。
畳を作ってから現場でずれてたら話にならないから。想定図を作って、予め並べて、しっかり準備してから現場へ向かいます。

畳職人になるまで

相川

先代の頃から考えるとどのくらい経つんですか?

勝紀さん

親父が23歳の頃に起業して今77歳だから、54年。
創業してからは50年かな、親父も東京のほうで修行してからきてるんで。

相川

すごいです!
そこから勝紀さんが仕事を継ごうと思ったきっかけとかってあったんですか?

勝紀さん

仕事継ぐきっかけって言ったら、自分は26まで勤めてたんですよ。

相川

そうなんですか!畳関係の業種ですか?

勝紀さん

それが全く関係ないんです。
建設機械や半導体製品を手がける会社に勤めてたので、
皆に「大企業じゃん、辞めなきゃよかったのに」って言われてます(笑)

相川

建設機械や半導体製品を手がける会社って、
本当に大企業じゃないですか!

勝紀さん

俺が辞めてから株価がめちゃくちゃ上がったんですよ!
自社株買っとけばよかった!(笑)

相川

(笑)けど中々そこまで読めないですよね。

勝紀さん

それもそうだね。自分がいたのはエレクトロニクス事業部っていう、半導体関係の仕事をしてたんだけど、
人数が多い会社なのでクリーンルームで同じ仕事をずっとやるっていうのが、当時の自分には中々息が詰まりそうな感覚だったんです。

相川

大企業だからこそだと思うんですけど、人が多い企業の中で同じ作業をずっと繰り返すというのは向き不向きが大きいですよね。

勝紀さん

そうだね。それでうちの仕事やるのもいいのかなって思い始めたんです。
それで26歳の6月に退職したんだけど、訓練校というのは4月に始まるから、
結局27の歳から訓練校に入ったんです。

相川

なるほど!すぐ思い立ってという感じだったんですね。
お父様の仕事を継ぐ前に訓練校に行こうというのは、元々決めてたんですか?

勝紀さん

うーんとね。やっぱりそのまま仕事するのはちょっと難しいなというか、ウチの親父は教えるのは向かない人なんで、どこかで修行して来いって親父から言ってきたのがキッカケです。
しかも色々な仕事をするなら尚更ちゃんとした場所で修行してきた方がいいってことで訓練校で修行しました。

相川

お父様はTHE・職人という感じの方なんですか。

勝紀さん

親父は完全にそうですね。畳の仕事しか知らないから。畳ひとすじです。
けど訓練校に通ったおかげで県外に仲間ができて、今も文化財の仕事に繋がってます。
2016年と2017年には広島の方から声がかかって、「神在月」で有名な社寺仏閣の仕事などを
やらせていただいたりしました。

相川

お手伝いというか、協力といった形でやられることもあるんですね。

勝紀さん

そうですね。例えば今話した社寺仏閣の仕事だと畳が何十枚といった数必要になるんですけど、
とてもじゃないけど1人ではできないので、声をかけてもらって手伝わせていただき、
いい経験をさせてもらいました。

相川

なるほど!職人さん同士のそういう繋がりってすごく良いですね。

仕事を断らない職人

勝紀さん

これも特殊なやつなんだけど、八重畳っていって、高貴な方が位を示すために使用する畳なんだけど、文字通り八段重なってるんです。
しかもこの柄が全部綺麗に合うように重ねていくんです。

相川

めちゃくちゃ細かいです!柄がビターっと合っていてとても綺麗!

勝紀さん

これは自分でも正直自信作で、綺麗にできたなーって思ってます。
普段の仕事で作ることはないけれど、仕事きたときに覚えとけよって訓練校で勉強させてもらったんです。
紋の間隔や上に出る幅まで細かく決まっていて、かなりの技術が必要なんです。

相川

そういう仕事の頂点を知っているから、どんな畳でも全部対応できて、信頼に繋がっている気がします。

勝紀さん

そうだね。だからこそお客さんや大工さん、同業者から「こういう仕事あるんだけどどう?」とかって相談をいただいたときに、基本は絶対に断らないようにしています。
何でもやるよって。そういう信用と信頼の積み重ねで、鹿沼市の天狗が有名な神社とか社寺仏閣の仕事もやらせていただけたりしています。

相川

確かに社寺仏閣の仕事をお願いするなら、知識と経験のある信頼できる職人さんにお願いしたいと思います!

勝紀さん

この前も他の職人さんのお手伝いで佐野市にある厄除けで有名なお寺の仕事をやらせていただきました。
社寺仏閣はやっぱ特殊だから、訓練校で気の合った仲間や先輩に声をかけていただいた仕事も多いです。

相川

お手伝いの仕事も結構あるんですか。
結構訓練校のつながりが今活かされているんですね。

勝紀さん

先ほども言ったように、基本は断らないようにしてるんで、何でもこいやって感じです(笑)

相川

こんなに綺麗な八重畳が作れるんじゃ、確かに何でもこいやですよね(笑)

他人が嫌がる仕事を楽しむ

相川

バッグとか小銭入れとかの小物も作ってるんですか?

勝紀さん

そうなんです。余った畳の縁を捨てるのはもったいないので、それを利用して作ってます。
他の畳屋さんも結構やっていたので、そういうのできるなら自分もやろうって思って始めました。

相川

畳の縁でできてるんですか!柄がおしゃれです!

勝紀さん

実は畳の縁ってめちゃくちゃ余るんです。1畳に対して2mくらい使うんですけど、それよりも短くなったら余ってしまうんです。
ハーフサイズとか仕様によっては短いのもあるんですけど、毎回使うわけじゃないのでとっておいてもどうしようもなくなっちゃう。

相川

なるほど。畳の長さ以下になったらもう余ってしまうわけですか。
けどかなり丁寧で良い作りをしてますね!

勝紀さん

本とか色々見ながら勉強して作ってます。
実はポーチなんか内布までしっかりつけてるんです。

相川

すごい!細部まで丈夫でしっかりしてます!

勝紀さん

結局自分はこういう細かい仕事をするのが好きなんです。性に合ってるんです。
この前、商工会のイベントでも小物を販売させていただきました。

相川

結構売れましたか?

勝紀さん

まあまあかな。
けど、皆さん物を褒めてくれて、ネットで販売したらいいのにって言っていただいたりもしました。

相川

じゃあ単純に素材が余ってしまっていたことと、ご自身が繊細な作業を楽しめるっていうことが、丁度マッチしていたんですね!
だから社寺仏閣の紋合わせなどの他の人が苦手だったりする仕事も、楽しんで出来ているんですか。

勝紀さん

そうですね!そういうところはあります。

相川

オーダーをするお客様側からしたら細部まで丁寧にやっていただける上に、しっかりとした知識もあるのでめちゃくちゃ安心です!

畳を長く使ってほしいから

相川

畳の修理などもやられてるんですか?

勝紀さん

そうですね。畳って使ってると、青い畳がだんだん焼けて色褪せてくるんです。
あとは使ってるうちに表面が痛んだり縁が擦り切れたりしたら、畳の表替えも頼まれます。
さっきまで特殊な仕事の話ばかりしたけど、基本的には畳の張り替えがメインです。

相川

なるほど。

勝紀さん

大体5〜6年くらいで畳の裏返しっていってゴザを裏返して再利用します。
それでも焼けてきたら今度は表替えっていって芯材はそのままゴザだけを取り替えます。
湿気とかシロアリとか、状況によっては芯材から変えることもあります。

相川

そこは職人さんに畳の状況に合わせて提案いただけるんですね。ありがたいです。
畳の部位の名前ですら、先ほど作り方を見せていただいたときに初めて知ったので、
なかなか素人では判断しづらい部分ですね。

勝紀さん

表面が汚れてきたり、水濡れでふかふかしてきたとか、そういった相談も結構受けます。
基本はお客様の困りごとや要望にあった内容で提案させていただいてます。

相川

メンテナンスしながら使えるっていうのは、やはり日本の昔ながらの物の良さを感じます!
ちなみに先ほど作った畳に霧吹きで何かをかけてたみたいですが、水ですか?

勝紀さん

この時期は畳が乾燥しやすいんで、霧吹きで水を与えるんです。
いぐさの毛羽立ちを抑えたり、丈夫にする効果があります。
実は畳って生きてるんで、空気中の水分を吸収するんです。
だけど今みたいな時期(12月)は空気が乾いているので、乾燥しすぎないように水を与えました。
逆に6月とか湿気が多いとカビたりするので注意しないといけませんが。

相川

なるほど!呼吸しているわけですか!

勝紀さん

部屋に敷いてある畳は湿度の高い時は水分を吸収して、乾燥しているときは逆に水分を放出してくれるんで、
湿度を一定に保って部屋を快適にしてくれる効果があるんです。

相川

だから畳の敷いてある部屋って、あんなに快適だったんですね。

職人としてのこれから

相川

畳職人として仕事をしてきて、よかったことややりがいを感じた瞬間ってどんなときですか?

勝紀さん

やっぱり社寺仏閣の特殊な仕事とか、そういう仕事をするときに達成感とかやりがいを感じます。
紋合わせとかも苦にせず楽しくできるんで、他の職人からお前ドMかって言われたこともあります(笑)

相川

細かい作業を苦にせず楽しくできるからこそ、先ほど見せていただいた八重畳の美しさがあるわけですか!
逆に大変だったことや悔しかったことってありますか?

勝紀さん

仕事をしてれば大変な時っていうのはありますけど。悔しかったことかー。
あんまり悔しいって感じたことはないかもしれない。反骨心無い方なのかもしれない(笑)

相川

畳と一緒で吸収しちゃうんですね(笑)

勝紀さん

うまいこと言うねー!

相川

ちなみに今後伸ばしていきたいこととか目標って何かありますか。

勝紀さん

そうですね。これから職人不足で、畳屋さんが結構減ってきているんで、
職人さんの価値を上げてって、良い仕事をしっかりできるようにしていきたいっていう気持ちはあります!
年々手伝いをお願いされることも増えてきているので。
だから、例えば社寺仏閣の仕事、やれる人は少ないからそういうのを強みにして、何でもやる職人・何でも受けられる職人を目指してます。
基本的にうちは断らない畳屋でやらせてもらってるんで。

相川

これからの職人さんは、本物の仕事がきちんとできる方が生き残っていくんですね。

勝紀さん

修行してないと、手縫いが分からずに機械任せで、現場でトラブルが起きたときに対応できなかったりするので。
自分は修行して手縫いもしっかり学んできてるので、若い人に負けないよう応用力があってなんでもできるという状態にしておいて、あの人に任せておけば大丈夫だなって、そう思ってもらえる職人になりたいですね。

相川

自分も今日お話を聞かせていただいて、勝紀さんになら安心して仕事をお願いできると感じました!

勝紀さん

うちの親父も元々何でもやってきてて、そこから東京の方と知り合って都内の仕事や、
あまり一般の人が入れないような場所の仕事をやらせていただけるようになったんです。

相川

なるほど。じゃあその「何でもやる」のルーツは、お父様からきているところもあるんですか。

勝紀さん

そうかもね。まあ貧乏性だからなんでもやらなきゃっていうのもあるんですけど、何でも断らないっていうのは多少影響を受けてるかな。

相川

けど殿様商売よりも貧乏性のほうがいいですよね。

勝紀さん

そうだね。基本は何でも、よっぽど金額が安いとかじゃない限りは何でもやるようにしています。

相川

本日はありがとうございました。貴重なお話がたくさん聞けて有意義な時間でした。

事業所紹介

日里畳店

代 表:日里勝紀

住 所:〒328-0104 栃木県栃木市都賀町木454

電 話:0282-27-7217

URL:https://www.cc9.ne.jp/~nissato/index.html

インタビュアー

相川 将宏

ココツガでは全体企画を担当しています。ヨモココやYouTubeチャンネルを通して、都賀町やそこに住む人々の「ココ」にしかない魅力、つながりを発信していきます。

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