vol.8
伝統を絶やさないために × 荒木時三商店
インタビュアー:相川将宏
2024.2.27
栃木県都賀町の魅力を、住んでいる人から伝えるヨモココ。
今回は、栃木県の伝統工芸品に認定された都賀の座敷箒を作っている、荒木時三商店様に伺いました。
元々箒づくりが盛んだった都賀町で、今では唯一の箒職人となりました。
今回はその箒職人、荒木由和様と奥様の初代様にお話を伺いました。
店名に込めた想い
- 相川
さっそくですが、店名の荒木時三商店というのはどういった由来があるんですか?
- 由和様
先代の荒木時三は私の親、親というか私は婿養子で家内の親です。
昭和23年からやっていたんですが、元々は特に名前は決まっていなかったんです。
だけど親が亡くなって、それで名前を遺そうということで「荒木時三商店」という名前になりました。- 相川
お父様だったんですか。
じゃあ最初から荒木時三商店としてやっていたわけではなかったんですね。- 由和様
どんどん高齢化で職人がいなくなってきている中で、実は私も最初はやる予定じゃなかったんです。
ですが、折角県の方で「都賀の座敷箒」として認定いただいた父の箒を絶やしたくないと思いここまでやってきました。- 相川
なるほど。そういう思いがあったんですか。
- 初代様
それもあって荒木時三商店って決めたんです。だけど時三商店だと何屋かわからないですよね。
だから時三箒とか、時三箒工房とかにしようかって思ったこともありました(笑)- 相川
確かに工房だと職人さんが作ってる箒って感じがします。普通にただ箒屋って言われるよりも。
公務員から職人へ
- 相川
普段はここで作業されてるんですか?
- 由和様
そうです。今の所従業員も居ないので基本私1人で作っています。
編むところと縛るところを時々家内に手伝ってもらってます。- 相川
由和様はいつごろから箒を作ってたんですか?
- 由和様
一応、正式に始まったのは定年退職後です。その前から作ったりしてはいたから、約20年くらいになります。
実はそれまでは公務員だったんですよ。- 相川
そうだったんですね!それはびっくりです。公務員から職人になったんですか!
ここで公務員というと、都賀支所に勤めてらっしゃったんですか?- 由和様
当時は都賀町役場だね。合併して栃木市になったんだけど。
合併してから5年くらいは本町で働いて、定年前の1年間はまた都賀に戻ってきました。- 相川
役場時代はどんなお仕事をされてたんですか?
- 由和様
福祉関係が多かったです。
あとは一時期北関東道自動車道立ち上げのために派遣で県の方に土地の買収に行っていました。
この頃は夜にハンコをもらいにいったり、大変でした。- 相川
へぇー。なかなかハードな仕事ですね。
- 由和様
都賀に戻ってきてからは当時、新規事業だった介護保険の担当になって、準備段階から立ち上げをやっていました。
- 相川
なるほど。そうか、介護保険が始まったときだったんですか。
色々ご経験されてるんですね!
農家にとっての副業
- 相川
昔はこの辺りに箒屋って結構いっぱいあったんですか?
- 由和様
昔。私が高校とかそういう今から4、50年前。親の話を聞くと100件くらいあったみたいです。
農家の方が農閑期に、あちこちでやってたっていう。ちなみに私の(実の)父も一応やってました- 相川
へぇー。じゃあ農家さんにとってその時期は箒を作るのが普通というか、常識みたいなかんじだったんですか。
農家の副業的な感じだったんですね。- 由和様
そうですね、米とか麦が終わった暇な時期に箒作りをしてました。
- 相川
米や麦が終わった時期、じゃあ冬にそういう副業をやっていたわけですか。
それが今では残ってるのは?- 由和様
多分、都賀町で本業でやっているのは私だけでしょう。
- 相川
確かに今はもう箒屋さんってなかなか聞かないですよね。時代の流れですか。
箒草ってどんな草?
- 由和様
箒作りに使う草なんですけど、ホウキモロコシって言うんです。
うちは近所の農家の方に頼んで作ってもらってるんですけど、もうご高齢の方で、いつまで作って頂けるかが心配なんです。それで私自身も、友達の畑が休耕のときにちょっとやってみたんですよ。
けどね、全然商品にならない草でした。- 相川
なるほどーじゃあ中々難しいものなんですね。
そのホウキモロコシってどんな草なんですか?- 由和様
こういう食べるとうもろこしみたいな草なんです。
- 相川
結構ちゃんと緑色の草なんですね。これで作るんですか!
予想していたものと全然違くてびっくりしました。これが箒になってるとは思えないです!- 由和様
これの穂の部分を煮るんですよ。しばらく煮て、それから干すんです。
- 相川
そうすると、こういう感じ(箒の色と硬さ)になるんですか。
他の草だとそうやって火を通したら丈夫にはならなそうな感じがします。
けどホウキモロコシって今まで聞いたことなかったです。ホウキモロコシ農家とかも。- 由和様
昔は結構あっちこっちで作ってたみたいです。
ただ、結構天候に左右されやすいんです。天候によって色が違ったり、穂の長さも変わったりしてしまうんです。
あとは台風なんか来ると曲がっちゃうんですよ。- 相川
そうなんですか。そういうのは煮たとしても曲がったままなんですか?
- 由和様
そう、直んないんだわ。
だからそれをわざと利用して小箒を作ってみたんですよ。- 相川
部屋の隅とか隙間とかに使うの便利そうです。それは良いアイデアだと思います!
箒ができるまで
- 相川
1本の箒ができるまで、大体どのくらいかかるものなんですか?
- 由和様
東京型の箒は完成までにかかる日数は大体1週間くらいかな。
まず乾燥させたホウキモロコシを水で3〜4時間冷やすんです。それからやっと編み始めるんです。
編めるのも1日2〜3本くらい、その時に冷やしてないと折れちゃうんです。
最後に5日くらい天日干しにします。- 相川
1週間もかかるんですか!なるほど、乾いているとパキッといっちゃうわけですか。
箒がまさかそんな水につけたりして作ってるとは知らなかったので、びっくりしました。
今、東京型という言葉がでてきましたが、箒の種類ってどのくらいあるんですか?- 由和様
うちの基本はこの東京型、その他に変わり型、トモエ、はまぐり、小箒。それと長いやつだから大きく分けると6種類かな。その中でも大中小だったり、持つところを編んだり。種類は色々あります。編むのに特に手間がかかるのははまぐり型です。
私も今は作ってないんだけど、ちょっとやったときは半日くらいかかりました(笑)
しかも途中でやめられないんです。やめると解けてきちゃうんで。- 相川
そうなんですか!ええ、じゃあぶっ通しで半日?それは大変だ。
けど確かにはまぐり型はすごく高級感があります。編み模様もとてもおしゃれです。- 由和様
他にも段々私が改良して。閉じ方、縛り方を工夫してみたり、使っている糸も職人さんにお願いして、昔ながらの方法で藍染をしていただいたり。
編み方を工夫すると綺麗ですよね。その分手間はかかるんですけど。- 相川
工芸品としてのこだわりですね。ひとつひとつがどの部分をみてもすごく丁寧で綺麗です。
ここまで箒をまじまじと見たことがなかったので改めて見ると確かに手が込んでるなって感じました。
ちなみにこんなこと聞いたら失礼かもしれませんが、天然素材の箒と、ホームセンターの箒で違うのは特にどんなところですか?- 由和様
ホームセンターにあるのはほとんど海外産だと思います。
向こうのだと結構、パラパラと折れるって言ってる方もいらっしゃいます。- 相川
確かに掃いててパラパラ落ちた経験あります。
けど箒ってそういうもの、それが普通だと思って使っていたかもしれないです(笑)
今まで使ってた箒はこんな優しい感じじゃなかったです(穂先触りながら)- 由和様
うんうん。安い箒はなんか硬いよね(笑)
国産のホウキモロコシで作ると、柔らかくて柔軟性のある箒に仕上がるんです。- 相川
だから国産の箒は長持ちもするってことですか?
- 由和様
そうだね。50年は使えると思います。ただ、使ってると先がだんだん減っていくんです。
そういうときは順番に部屋、玄関、最後は庭箒で使ってくださいと言うふうに説明してます。- 相川
50年!そこまで使い続けられる道具ってなかなかないです。
- 由和様
値札を見て高いって思われると思いますが、50年電気製品が持ちますか?っていうことです(笑)
- 相川
確かに、作る時のこだわりとか色々伺った後だと価格にも納得です。
手触りも何もかも、今まであった箒のイメージと全然ちがいます。
掃除機より長持ちしますからね(笑)
伝統を広めたい、伝えたい。
- 由和様
本当は長い箒を今、実演できればよかったんですけど昨日帰りが遅くてまだホウキモロコシを冷やせてないんです。
実は昨日まで越谷のレイクタウンで栃木県フェアという催事があって、実演と販売をやっていたんです。- 相川
越谷ですか!そういったイベントにも出られるんですか。
- 由和様
ええ、伝統工芸品の催事だったり、イベント会社からの紹介をいただいたり、出店して実演していると見てくれる方も結構多いんです。
あとは小学校とか中学校に体験事業で教えに行くこともあります。
子ども達は結構上手なんですよ(笑)
- 相川
学校の体験事業までやられてたんですか!
けど、そういった体験って、当時は楽しみながらもなんとなく参加してても、大人になったときに良い経験だったなって気づきますよね。- 由和様
教えるのは簡単な短いやつなんだけど、縛るのに力が必要で、これが結構大変なんです。
けど、子どもたちが楽しいって言ってくれるんで、それがやっぱり嬉しいです。- 相川
箒作りって、なかなか体験できる機会がないですもんね。
ちょっと羨ましいです(笑)- 初代様
催事に出店したときも、お子さんが何人か作りたいって言ってくれました。
あとは小さい箒を並べてると、かわいいって言って買ってくれる方もいらっしゃいます。- 相川
確かに小さい小箒ってかわいいです。これは端材とかで作るんですか?
- 由和様
そうなんです。中途半端になった素材で作ると買ってくれる方もいらっしゃるんです。
だけど、売りたくて作ると何故か売れないんです(笑)- 一同
(笑)
伝統工芸品も、ニーズに合わせて。
- 相川
ちなみに、神社仏閣に納品されたりもするんですか?
なんとなく勝手なイメージですけど、神社とかってこういう箒を使ってるイメージがあるんです。- 由和様
ええ、二荒山神社で毎年5本くらい東京型の箒をご注文いただいてます。
- 相川
すごい、二荒山神社でも荒木さんの箒が使われてるんですか。
- 由和様
あとは看板屋さんから、字を書くために筆を作ってくださいって頼まれたこともあります。
- 相川
箒の筆ですか!
- 由和様
結構普通の筆と同じように書けるんです。
- 相川
そんな使い方があったなんて、すごく面白いです!
あとは僕、キャンプによく行くんですけど、実はテントを撤収するときに中を掃くのに小箒がすごく重宝するんです。
軽いしその辺に置いておけるし、これがかなり良いんです。
砂利とか虫が入って悩んでる方は多いと思います。
電源が無いので掃除機は使えませんから、箒しか活躍できないところっていうのは結構あると思います。- 由和様
それはいいですね。実は色々使えるんです。車の中を掃除するのにも結構便利ですよ。
あとは結構最近だと、幅の狭い箒を作って欲しいっていう方も多いんです。- 相川
昔より家が狭くなって掃く面積が狭くなったから、とかですか?
- 由和様
それも多分ありますよね。あとは吊り下げやすいからじゃないかな。
- 相川
なるほど!お客様のニーズに合わせて箒も進化しているということですか。
職人は年々減っているから
- 由和様
地域とか職人さんによって、箒も作り方が色々あるんです。
- 相川
なるほど、編み方とかもですかね。
そういうのって、職人さん同士で意見を交換したり、技術をもちよったりするんですか?- 由和様
そういうのもあったら良いなとは思うんだけど、今はもう近くに他の職人さんが居ないので。
知り合いの職人さんも何人かは居ますが、皆さんご高齢で、今では各県に数人といった感じになってるんです。
昔は箒の組合みたいのもあったようですが。
- 相川
そうだったんですか。
確かに荒木さんとお話しするまで、箒職人という方に出会ったことはありませんでした。
だからこそこの「都賀の座敷箒」を絶やさないために想いを込めて活動されているんですね。
これからの目標
- 相川
荒木さん自身、およそ20年職人としてやってきたわけですが、これからの目標などあれば伺いたいです。
- 由和様
そうですね。体が動く限りは箒を作っていきたいと思ってます。
そして県の伝統工芸士の認定を頂くことが目標です。- 相川
伝統工芸士ですか。
由和様の想いはかなり伝わったので、僕も是非認定されて欲しいと思います。- 由和様
あとは、この後も継いでやってくれる方が居れば良いんだけどね。
現代で箒で食べていくってなかなか大変なことだけど、私としてはこの荒木時三商店の「都賀の座敷箒」が今後もずっと続いて欲しいと、そう思っています。- 相川
そうですよね。本日お話を伺う中で、僕の箒に対するイメージも大きく変わりました。
今まで箒をまじまじと見たことがなかったので、改めて説明を聞きながら見てみると編み方が色々あるんだなとか、はまぐり型って綺麗だなとか、職人さんが箒に込める想いを感じることができました。
全ての話が僕にとっては新鮮で興味深かったです。
本日はありがとうございました。- 由和様
こちらこそありがとうございました。
事業所紹介
「都賀の座敷箒」荒木時三商店
代 表:荒木由和
住 所:〒328-0104 栃木県栃木市都賀町木284-3
電 話:0282-27-3185
インタビュアー
相川 将宏
ココツガでは全体企画を担当しています。ヨモココやYouTubeチャンネルを通して、都賀町やそこに住む人々の「ココ」にしかない魅力、つながりを発信していきます。